カスタマーサクセスの「青本」として有名な「Customer Success」の日本語訳版「カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」が発売されました。
カスタマーサクセスはサブスク経済での新たなマーケティング手段
よく訊かれるのが、カスタマーサクセスへの投資の必要性をどう根拠づけるのかということだ。これは私の考えだが、正しく進めれば根拠の必要はほとんどない。カスタマーサクセスとは、自社の顧客リストを守り、新たな機会につなげ、顧客の中から生涯を通じてアドボケート〔 企業やブランドの擁護者、代弁者〕となってくれる人を生み出すものだ。効果的に運用すれば、最大の営業・マーケティングツールになり得る。
カスタマーサクセスにおいて、チャーンレート(解約率)や契約更新率などの指標が重視されることが多いですが、その本質は自発的に顧客を増やしてくれる「自社のファン」を作ることにあると考えています。プロダクトの価値はもちろんのこと、自らが抱える課題を能動的に解決してくれるプロセスを通じ、思わず「あのプロダクト/会社すごいよ!」と語ってくれる、ロイヤリティの高い顧客を増やすことができたのであれば、メッセンジャーとしてプロダクトを色々な人に売りこんでくれる強い力になるはず。
本書ではカスタマーサクセスが生み出す「二次収益」にも触れられています。ここで言う二次収益とは、カスタマーサクセスが生み出す補助的な売上を指し、具体的な例として「プロダクトを気に入っているユーザーが転職後に同じものを採択」したり、「愛着のあるプロダクトを友達数人に話し、うち何人かがオススメに従い導入する」といったような状況は実際よく生まれているのではないかと思います。

カスタマーサクセスの浸透で起こるパワーシフト
売切り型のビジネスと比較すると、サブスクリプションは投資回収期間が長くなります。つまり、営業は「売上」ではなく「受注」を作る存在となり、サービス利用継続/最大化に責任を持つカスタマーサクセスの重要性が相対的に高まります。他にも企業に求められる変化として以下が挙げられています。
①自社製品を使って長期的に成功できる顧客のみが、マーケティングと販売の対象になる
②初回契約に対しては、特にLTVを犠牲にするものの場合、あまり重視されなくなる
③更新への意識が全社的に高まる
④潜在顧客に設定される期待値が引き上げられる
⑤オンボーディングを確実に行って顧客が成功し続けられるよう、ノウハウの移行とアフターサービスの準備にこれまでより注意が払われる
⑥更新やLTVに対しても報奨制度が定められる
受注件数や初期の売上重視からLTVが最重要指標になると、そもそも「正しい顧客に売る」ということが非常に重要となります。従来は営業が責任を担っていた売上は、サブスクリプションにおいてはマーケティングとカスタマーサクセスに分散していく方向性になると考えています。だいぶ前にこんなツイートもしてました。
SaaSを始めとするサブスクリプション商材はゴリ押し営業スタイルだと受注できてもアンマッチによる解約多くて売上には繋がらないので、営業パーソンのスキルセットは従来型からの再考が必要だなと最近感じる。そしてマーケティングのプレゼンスが上がっていく。
— 鈴木大貴 / HiCustomer (@dkzks) 2018年1月26日
Time to Valueを最短に
顧客は、最初は始めたがっていても、プロジェクトが始まれば勢いや集中力を失ってしまうことがほとんどだ。自分の製品が生産段階に入れなければ、顧客はそこに価値を感じてはくれない。
プロダクトの導入意思決定から顧客が価値を感じるまでの時間や労力が大きくなるほど、定着率は減少します。いわゆるオンボーディング期間の成否がサブスクリプション商材のLTVを決定的に左右するため、Time to Valueをどのように最短に、摩擦を少なくするかは非常に大きな課題です。
本書では「最初は一番成果が見えやすい指標を達成して、その後残りに取り組む。」とある通り、顧客が感じる価値を「前倒し」で提供することで以降の導入モチベーションを担保するといった工夫もカスタマーサクセスに求められます。
ヘルススコアと顧客のセグメンテーション
これは顧客の将来の行動(更新、アップセル、チャーンなどの危険な状態)を示す日々の指標であり、自部署を日々管理できるものだ。 CSMがチャーンやリテンション率を算出するまで12カ月も待つ必要はないのである。
カスタマーサクセスは顧客の課題を「能動的に」解決することで、ロイヤルティを生み出し、その結果としてLTV最大化を達成する取り組みです。顧客によるプロダクトの利用頻度や活用度合いに応じて、解約/アップセル可能性などの先行指標であるヘルススコアをカスタマーサクセスでは用います。ヘルススコアを日々モニタリングしながら対応すべき顧客の優先順位付けやカスタマーサクセス施策のPDCAを回していくのが一般的です。
また、「自社の事業に合った指標で顧客をセグメント化する」ことがカスタマーサクセス効率化のために重要な考え方となっています。セグメントには顧客当たりの売上規模やライフサイクルに応じて顧客を分類するなどいくつか方法がありますが、本書では1顧客あたりの売上規模により、向き合い方を変えることの重要性が語られています。(いわゆる、ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチの話。そもそもそれって何?という方はこちら)
「顧客の時代」に立ち向かうために
情報を仕入れるコストが下がっていること、プロダクトに対する評判の透明性が高まってきていることから、顧客自ら事前に入念なリサーチをし、プロダクトの導入意思決定を行うことが当たり前になっています。そんな「顧客の時代」において、本書を読めばカスタマーサクセスの重要性は痛いほど理解できるのではないかと考えています。
日本でもその重要性に気づき、コミュニティや多くの勉強会が立ち上がりつつありますが、効果的な取り組みができている会社は少ないと感じています。我々もカスタマーサクセス管理のプロダクトを通して、この新しい波に立ち向かうみなさんに武器を提供したいと思ってますので、カスタマーサクセスを本格的に取り組んでいきたい方がいればぜひご相談ください。


HiCustomer株式会社 代表取締役
EPRベンダー、SaaSスタートアップへ投資支援を行う企業を経て2017年12月にHiCustomerを創業。国内初のカスタマーサクセス管理ツールをSaaS事業者向けに提供しています。