新型コロナウイルス感染症が社会活動に与える影響が日に日に大きくなり、この数ヶ月でビジネス環境も大きく変化してきています。われわれのお客さまからも、カスタマーサクセス活動にも影響が出てきているといったお話を聞くようになりました。
刻々と変わる状況の変化に対して場当たり的に「リアクティブ」な反応をしてるようでは、顧客への十分な対応をすることができません。そこでこの記事では、ビジネス環境の変化に合わせてカスタマーサクセス業務の内容を進化させていくための方法を3つのステップで紹介いたします。
(1)ビジネス環境の変化を整理しよう
改善活動を進めるためには、環境変化やその影響を正しく把握することが大事になってきます。まずは、顧客はもちろんのこと、市場環境、自社の置かれた状況を整理していきます。
顧客の変化を整理しよう
①顧客のビジネスが受けている影響
新型コロナウイルス感染症の影響で想起されるのは、経済状況の悪化やリスクの増大といった悪い面での影響です。一方で、業界・業態によってはこの状況をチャンスと捉えられるケースもあります。ダイヤモンド社がまとめていた集計でも、業界によって受ける影響が異なることが指摘されています。

マスメディアによる報道やSNSからの情報に頼らず、自社の顧客、並びに顧客の顧客が置かれている状況を理解することを、まずは進めてみるとよいでしょう。
②ヘルススコアの変化
以前と比べてプロダクトの利用率や顧客との関係、プロダクトが創出する成果について変化はありませんか?
ヘルスコアの構成要素をリストアップし、前年同月比や前月との比較をすることで大きな差が出ているところを見つけましょう。これは、顧客毎の変化だけでなく、顧客セグメント単位の傾向を掴むのにも有効です。
③アクティビティ完了率・成功率の変化
顧客に対して実施しているアクションへの反応について、変化はありませんか?例えばオンボーディングにかかる時間が長くなってきている、カスタマーの担当者との電話連絡が取りづらくなっているなどといった事象が考えられます。
以前と同じアクションをしているにも関わらずその反応や成果が薄くなってきている場合は顧客のビジネスや体制に変化がある可能性が考えられるため、それらを把握する必要があります。
不確定要素を洗い出そう
顧客状況の傾向が把握できたら、自社や業界の情報も含めて、環境面における不確定要素をピックアップしていきましょう。この際、PEST分析やSWOT分析といったフレームワークを活用することが有効です。

その際には、すでに発生している事象や課題に対する「短期対応」と、ビジネス構造の変化を踏まえた「中期対応」の双方を検討する必要があります。新型コロナウイルス感染症の影響は場合によっては年単位で影響を残しますし、ビジネスモデルや商習慣すら変えるパワーを持っています。
以下では短期対応を例に話を進めますが、上記のような分析をもとに先を見すえた先行投資をすることも必要があるとも考えます。
(2)サクセスロードマップを見直そう
サクセスロードマップとは、顧客を成功に導くためのカスタマーサクセス業務プロセスを設計する手法です。顧客の成功を定義し、そこに至るまでの顧客と自社のタスクやアクションを整理することができます。(参考記事)
ここまでのステップで、ビジネス環境や状況の変化に伴って顧客が求めていること(例えば顧客がサービスに期待することや、プロダクトの使われ方)が変わっていたり、今後変わってくることを想定してきました。その結果にあわせて、サクセスロードマップも見直していきましょう。
(もし、サクセスロードマップを作ったことがなければ、この機会に作ってみましょう)
例えば、短期的な影響に対する対応としては、以下のような確認項目が考えられます。

①導入期
・顧客期待や導入目標の十分な確認:通常大きな変化がある時期に投資判断はされません。そのため、この時期に導入を決めてくれた顧客には、緊急性の高い事情があるなど、これまでの一般的な顧客とは違った課題意識や導入目的を持っている可能性があります。
キックオフ・ミーティングでのヒアリングなどを通じて、十分にゴールの認識合わせをする必要があります。
・暫定的な課題解決や小さなゴールの提案:顧客は長期にわたって実現していく改善や大きな成長よりも、現在発生している直近の課題解決を望んでいるかもしれません。
その場合、短期間で実現したいことが達成できるよう、簡易的な方法で暫定ゴールを目指す提案が必要になります。
・導入スケジュールへの合意形成と進捗管理:顧客はこのプロジェクト以外にも多くの業務を抱えています。状況が刻々と変化するなかでも、優先順位の合意形成や普段より細やかな進捗管理が必要になるかもしれません。
②活用期
・顧客のビジネスゴールに変化がないか確認:顧客が望む「成功」状態が契約の想定から変化している可能性があります。顧客のビジネスそのものが変化しているケースが考えられるからです。
・サービス利用目的変化にあわせた情報提供:顧客のビジネスが変化していくことで、プロダクトやサービスを使う目的や使い方が変化していく可能性があります。例えばマーケティングツールはナーチャリングより刈り取りに、コミュニケーションツールはリモート前提の使われ方になるといった具合です。
これらの状況にあわせて、ヘスススコアの構成要素を見直したり、顧客に提供するコンテンツを変更していく必要があるかもしれません。
・組織体制変更に備えた関係維持・構築:顧客の組織体制が変わる可能性が高まります。責任者・担当者との関係性を維持し、引き続き適切なタイミングでコミュニケーションを取っていく必要があります。
③契約更新期
・継続投資判断のためのROI可視化:不確定要素が大きい間は、投資判断に慎重になる顧客が増える可能性があります。リテンション、アップセルともに、ROI(費用対効果)の可視化や、短期間での伸長が求められるかもしれません。
・キャンペーン情報の積極的な情報提供:顧客保護を目的とした対応策のお知らせや新サービス、プロダクトアップデートといった情報は、より積極的に伝えていく方がよいでしょう。顧客は普段よりも、十分な情報収集ができていない可能性があるからです。
・コンセプトへの理解と長期的関係構築:今後も環境変化に適応してプロダクトやサービスを継続して提供できることや、こういうときだからこそ、長期的な視座でのコミュニケーションが取れるようにしましょう。
(3)アクティビティを改善しよう
サクセスロードマップが定義できたら、実際にサービス提供をするための準備を進めていきます。
まずはエンプロイーサクセスを目指そう
顧客へのサービス提供を継続的に実施できることはもちろんのこと、カスタマーサクセス担当者を初めとした従業員の安全確保は最優先に考えたサービス提供スタイルを検討すべきです。
例えば、訪問によるミーティングや自社の会議室でおこなうトレーニングコースといった対面前提のアクティビティは双方にとってリスクになります。リモートワーク前提の環境においては、社内コミュニケーションのスタイルを変えなければなりません。メンバーのモチベーションマネジメントも大切になってきます。
タッチモデルに縛らないようにしよう
カスタマーサクセスを考える上で誤って捉えがちであった「顧客価値の高い顧客はハイタッチ、そうでない場合はテックタッチ」という整理をやめ、目的から逆算してサービス提供方法を検討したほうがよいでしょう。標準コンテンツの提供をベースにしたテックタッチでのサービス提供ができるようになると、チームの業務や認識の標準化も期待できます。
「どんなときに、何をするか」を明確にしよう
リモートワークでの非同期の社内コミュニケーションを前提とすると、タイムリーな対応をするためには、作業のたびに上長に許可を求めたり、メンバーと確認をすることが難しくなります。そのため、ヘルススコアや顧客のデータをもとに自律して動いていくことができるよう、「どんなときに、何をするか」を決めた上で権限委譲といったルールの整備やマニュアルを用意することも有効です。
また、環境の変化が早い時期は、これまで以上にアクティビティの成功率や対応状況について、振り返ったり分析をしたりする頻度をあげ、必要に応じてルールやマニュアルの改善を進めていくことも必要です。
チームで対応しよう
サービスの提供を継続して実施していくためには、例えば社内のメンバーに緊急事態が発生したときにも他のメンバーで対応を続けるといった対策が必要になります。そのためには、ひとりの担当者しか分からない業務を減らしていく必要があります。
副担当を付ける、定期的に担当変更をする、作業記録を残すなどをして、チームとしてサービスの提供が続けられる状態をつくっていきましょう。このような準備は全社的に事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)としてまとめていくこともあります。
そして、これらを継続して改善を進めることができれば、顧客や環境の変化にあわせたカスタマーサクセス活動がおこなえるようになると考えています。一緒に、この危機(と、チャンス)を乗り越えていきましょう。