2019年2月12日、HiCustomerにて『データドリブンなカスタマーサクセスチームの作り方 』と題したイベントを開催しました。
新しい概念であるカスタマーサクセスを真の意味で価値のあるものにしていくために欠かせないのが“チーム作り”の観点です。HiCustomerでは複数回に渡り、現場で活躍中のカスタマーサクセスマネージャーをお招きするイベントを開催。皆さんが試行錯誤した生の経験から、カスタマーサクセスチーム作りのキーポイントを探ります。
今回は、HiCustomer高橋をモデレーターに、ベルフェイス株式会社カスタマーサクセス企画室室長 小林 泰己氏をお招きしお話を伺いました。
ベルフェイスのチーム作りとは?
小林氏がカスタマーサクセスを担うのは、営業に特化したWeb会議ツール「bellFace (ベルフェイス)」。訪問が当たり前の日本の営業スタイルを変革し、Web上でのコミュニケーションで営業を完結させるツールです。大きな特徴は、会議相手にアプリをダウンロードさせることなく、OS、ブラウザ、デバイス問わずに接続ができること。そのシンプルさが魅力となり、リリースから約3年で多種多様な業界900社以上に、すべて有料で導入されています。
現在のベルフェイスのカスタマーサクセス事業部(以下、カスタマーサクセスチーム)は、カスタマーへのタッチの方法でハイタッチ担当、ロータッチ担当、テックタッチ担当に分かれており、小林氏が室長を務めるカスタマーサクセス企画室が担うミッションは、テックタッチ領域の統括を中心にカスタマーサクセス全体のオペレーションや戦略立案。チーム全体の目標は「継続率」と「アップセル」です。
「データがない」データドリブンなチーム作りの第一歩は、現場の声の定量化。

今でこそカスタマーサクセスは注目を集めていますが、ベルフェイスはリリース当初の3年前からカスタマーサクセスを最重要項目の一つとして位置づけ、ありとあらゆる取り組みにチャレンジしてきました。
カスタマーサクセスチーム立ち上げ当初の様子を「五里霧中の中で色んなことにトライしてきました。だからこそ、複数の施策のうちどれがカスタマーのサクセスに寄与しているのか分からず、苦しい時期でした。そこから脱却するために、データから導けることはないかと模索し始めたんです。」と振り返ります。
キレイに整備されたデータがなかった当時、目を向けたのが“現場の感覚値”を定量化すること。まずは顧客の状態やアクション内容といった情報から成果に相関していそうな指標の仮説を立てました。そこから分析を重ね、見えてきた指標が「スターユーザーの有無」「推進者のやる気」「コミュニティへの来場」の3点です。
プロダクトを頻度高く有効に使う”スターユーザー”の存在はあらゆるSaaSサービスで重要視されます。導入や利用継続への意思決定をされる”推進者”も同様です。それぞれに対してアプローチが必要な中で、カスタマーサクセス担当者が理解しておくべきことは、スターユーザーと推進者が同一の企業もあれば、そうでない企業もあり、またスターユーザーと推進者がプロダクトへ期待する役割、利用する機能はそれぞれ違う場合もあるということです。
高橋からも「カスタマーサクセス担当者は、導入を決裁する”推進者”へのアプローチも忘れてはいけません。決裁する人にとってのサクセスとは何か、しっかりやる気をもってくれているのかという視点を、ベルフェイス社では重要視しているのですね。」と、この視点の重要性が補足されました。
顧客を4つのステージに分類し、施策を分け優先度をつける。

カスタマーサクセスチームの定性データを元に、顧客ステージ分類のプロトタイプとなるものが出来上がりました。
見ていくべき指標としてと定めた「スターユーザーの有無」「推進者のやる気」「コミュニティへの来場」の3項目に対して顧客毎に状態を評価し、それに応じて顧客ステージを上から「Success」「Growth」「Rescue」「Mogura」の4つに分類しました。
「Moguraは『土に潜ったら上がってこない』ことから由来しており、Saleforceが提唱していた呼称を取り入れました。ベルフェイスの顧客はRescueフェーズからスタートすることが多いのですが、そこからMoguraフェーズに落ちてしまったカスタマーを引き上げることは困難です。そのためMoguraから引き上げることよりも、いかにこのフェーズに落とさないよう手を打つかという点にリソースを割いています。」と小林氏は顧客ステージ分類の考え方を紹介しました。
限られたリソースの中でカスタマーサクセスチームが成果をあげるためには、全ての顧客に全力投球のスタイルで臨むのは難しいもの。ベルフェイスのカスタマーサクセスチームでは、「Moguraに落ちたらもう手の打ちようがないので対応優先度を下げる」といった思い切った取り組みもしています。
ここまで作ってきた顧客ステージ分類のプロトタイプを軸に、ステージに合わせた施策を打っていくようになりました。この時期が、カスタマーサクセスチームにとって一つの転換期に当たります。
小林氏はこの時期を「顧客ステージを設定したことにより、カスタマーのフェーズにより効果的な施策を打つという考え方がチームの中でスタンダードになりました。しかし、ツールの利用状況やコンテンツへの接触状況といった細分化した指標を用意していなかったため、カスタマーの変化を把握することができず、タイムリーな対応が難しいという新たな課題にも直面しました。」と振り返ります。
指標を数値化。より適切な顧客に集中し、的確で効率的な打ち手を考える。

そんな最近のベルフェイスのカスタマーサクセスのトレンドキーワードは「ターゲット・非ターゲット」「ヘルススコア」の2つ。
より細かな指標で顧客の状況を把握しながらカスタマーサクセスに取り組むため、小林氏は過去2年間に渡り全ての支援結果を分析しました。その結果、行き着いたのが「ターゲット・非ターゲット」の考え方。カスタマーの”業種”と支援結果に相関関係があることが見えてきました。
業種ごとに継続率とアップセルの実績から4段階に評価。もっとも評価の高い業種群だけをターゲットと呼び、そこにリソースを集中させる戦略を取っているようです。また、この考え方により、対応優先度を下げていたMoguraステージの顧客にも、ターゲット業種の場合はサクセスに向けて施策をおこなうようになりました。
さらに、ターゲット分類の考え方は、カスタマーサクセスだけでなく、セールスプロセスにも展開していると言います。継続・アップセルをしやすいカスタマーのリードを獲得、受注するように働きかけているのです。とはいえ、セールスチームは日々売上を追っている中「その企業は非ターゲットだから契約を獲得しないで欲しい」とブレーキをかけてしまうのは本末転倒です。では、どのようにターゲット企業中心に契約獲得させていけばよいのでしょう?
この点にベルフェイス社の工夫があります。それがマーケティングチームのポイント制による評価。マーケティングチームはターゲットとなるカスタマーのリードを獲得すると1ポイント、非ターゲットなら0.1ポイントのカウントになります。
このため、マーケティングチームには優良カスタマーとなりうるリードを獲得する力学が働きます。その上でセールスチームは、ターゲット企業中心のリードとの商談に集中でき、カスタマーサクセスチームも成果を出しやすいという全体での好循環が生まれるのです。
キーワードの2点目はヘルススコア。性質に合わせてA Score、B Score、C Scoreと3つに分類し、それぞれ3つ、合計9つの指標があります。
これらのABCはそれぞれ、Application、Base、Contentsを意味しており、例えばA Scoreにはアプリケーションに関する接続数や接続ID数、発行ID数の指標が含まれます。このように覚えやすく想起しやすいネーミングをつけることも、チームがスコアを意識しやすくなる仕掛けとして機能しています。

またこれらの指標をタイムリーに取得できるよう、接続数やID数といった利用状況をプロダクトから取得したり、担当者とのやりとりをSalesforceからダウンロードしたりすることで、ヘルススコアの推移を定期的にチェックすることが可能になりました。小林氏によればA B C Scoreの運用開始によってあることが分かってきたと言います。
「9つの指標はゆるく相関しています。ひとつのアクションだけでカスタマーを一気にサクセスに導けることはなく、あらゆる面でのアプローチがカスタマーサクセスに繋がります。スコアが凹んでいる点を引き上げようとすればその他のスコアの向上にも貢献します。」
また、顧客へのハイタッチ施策によって、ヘルススコアが上がる傾向が可視化されただけではなく、施策の実施方針に対する示唆を得ることができました。1社に対して多くの施策を実施することよりも、多くの企業に少ない回数の施策を実施したほうが全体のヘルススコアが改善できることがデータからも明らかになったのです。このようなデータの活用が、限られたリソースの中で効果的なカスタマーサクセスを実施する戦略に繋がっています。
最近では、顧客ステージとヘルススコアによってアクションを細かく定めたフロー図を用意しテスト運用を始めました。どの顧客にどんな施策をすべきかをルール化したのです。
小林氏は「今はフロー図を見ながら施策を実施しているが、HiCustomerの機能を活用して顧客へのアクション内容とタイミングを表示させることで、効率的なオペレーションを実現していきたい。」と語りました。
お話の最後に小林氏から、自社にはデータがないと諦めずに、今まで実施してきたことを振り返ることから始めてみようとのアドバイスがありました。「データとは、仮説の答え合わせをするためのもの。もしデータがなくても、顧客と向き合う中で仮説をたてることはできます。仮設をたてて素早く実行し、集めたデータで答え合わせをし、次の仮説をたてていく。この繰り返しこそがデータドリブンなカスタマーサクセスなのだと信じています。」
現在ではデータを活用し高い水準で標準化されたカスタマーサクセスを実行しているベルフェイス。しかし、過去の結果を一つ一つ振り返り数値化するという地道な作業から始めた取り組みによって、現在のデータドリブンな洗練されたカスタマーサクセスに繋がっているのです。
データドリブンと聞くと、データベースを整えようなどといった、技術面からのアプローチをとりがちです。しかし、これからデータドリブンなチーム作りに取り組むリーダーにとって最も必要なことは、データ活用によって叶う理想のチームへ、メンバーに働きかけ導くメンタリティや根気強さなのかもしれません。(文:萩原愛梨 編集:高橋 歩)
次回勉強会のお知らせ
次回は2019年3月12日(火)より、Emotion Tech様に「個人からチームへ、再現性を作るカスタマーサクセスプロセスの磨き方」についてお話頂きます。イベントページはこちら


HiCustomer株式会社 代表取締役
EPRベンダー、SaaSスタートアップへ投資支援を行う企業を経て2017年12月にHiCustomerを創業。国内初のカスタマーサクセス管理ツールをSaaS事業者向けに提供しています。