クラウドサイン岩熊氏が語る「プロダクトの成長に関与できる」カスタマーサクセスチームの作り方


イベント「成果の出せるカスタマーサクセスチームの作り方」

2019年1月29日、HiCustomerにて『成果の出せるカスタマーサクセスチームの作り方 』と題したイベントを開催しました。昨年は”カスタマーサクセス元年”とも言われ、カスタマーサクセスに関する多くの情報を得ることができました。

しかし、カスタマーサクセスを実現させるためのチーム作りや体制についてはあまり語られていません。新しい概念であるカスタマーサクセスを真の意味で価値のあるものにしていくためには、実際に運用し事業成長に貢献していく必要があります。そこで重要になるのがカスタマーサクセスチーム作りです。

HiCustomerでは複数回に渡り、現場で活躍中のカスタマーサクセスマネージャーをお招きしたイベントの開催を企画。皆さんが試行錯誤した生の経験から、カスタマーサクセスチーム作りのキーポイントを探ります。初回は、HiCustomer高橋をモデレーターに、弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業部 Head of Customer Success 岩熊 勇斗氏にお話を伺いました。

クラウドサインのチームづくり

今回お招きした岩熊氏がカスタマーサクセスのミッションを担うサービスは「クラウドサイン」。契約締結から契約書管理まで可能なクラウド型の電子契約サービスです。個人事業主向けのフリープラン、企業向けのスタンダードプランに加え、契約書作成、顧客管理、ドキュメント管理など様々な外部サービスと繋がる複数の連携サービスがあり、ユーザーはプランによって月額使用料と、契約書送信件数あたりの費用を支払うことになります。

サービスリリースは、2015年10月。今回は2016年から現在までを「PMF期」「チーム立ち上げ期」「拡大期」の3つのフェーズに分けて、それぞれの時期のチーム作りについて振り返っていきます。

「PMF期」は顧客に会い、顧客像の解像度を上げることが重要。

弁護士ドットコム株式会社クラウドサイン事業部カスタマーサクセス担当岩熊氏

サービスリリースしたばかりのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)期のクラウドサインは、プロダクトとしてはSMB(中堅・中小企業)の方に向けてフリーで使える最低限の機能に絞ったものでした。市場も「契約書は紙に印刷して判子を押すもの」という認識が当たり前でした。そんな中でも、SMBの顧客だけでなく少しずつ大手企業も導入が決まります。この時期に注力した動き方は、チャットサポートと大企業へのオンボーティング支援。岩熊氏は当時の様子をこう振り返ります。

「兼任する業務の合間をぬってチャットを返しながら、大手企業へはしっかりと入り込んでコンサルティングを行なっていました。大手企業において契約関連業務には多くの方が関わります。そこにクラウドサインを導入するとこれまでの業務フローを変えることになるため、一緒に業務フローを検討したり、最低限必要な機能を洗い出し実装したりしていました。当時はセールス兼マーケ兼企画兼カスタマーサクセスのような働き方でしたね。これが1年くらい続きました。」

この時期は、今のようにチームメンバーがいる訳でもなかったので、幅広い業務において戦略から実行、改善までこなす必要がありました。しかし、この経験がチーム立ち上げに活かされていると言います。それは”顧客に会うこと”。チームを作れば、メンバーから報告・相談があり指示を仰がれることになりますが、その際正しい判断をするにはメンバーの報告の奥にいる顧客の姿をイメージする必要があるからです。

さらに、岩熊氏がもう一つ重要な学びの一つとして挙げていたことは”プロダクトを正しく成長・改善させることでしか本質的な解決には繋がらない”ということ。あらゆる業務を兼任したことで「売るため」「オンボーディングさせるため」という近視眼的な手法主義でなく、大局的なバランス感覚を身につけることができました。PMF期を経て、クラウドサインのサービス成長の可能性に確信を得ることができ、一層の拡大へと舵を切ることになります。

「チーム立ち上げ期」は試行錯誤が付き物。チームがワークするKPI設定と業務分担を目指す。

HiCustomerカスタマーサクセス担当高橋

サービスの拡大に踏み込む決断をしたことにより、カスタマーサクセスチームを組織することになります。この時に採用したのがチャットサポートの専任メンバー。岩熊氏曰くクラウドサインのカスタマーサクセスにとって”チャットサポート”は最重要施策の一つだそうです。そのためチャットサポートメンバーは今でも”専任””正社員”にこだわっており、レスポンススピードも15秒という驚異的な基準値を置いています。

また同時に力を入れていたのがヘルプコンテンツの充実です。当時の顧客の多くは、アーリーマジョリティーでありリテラシーの高い層でした。そのため、正しいヘルプコンテンツを用意すれば自ら活用を進めてくれると考え、ヘルプコンテンツを量産。ボリュームゾーンに対するサポートを整え、サービスの急成長にも耐えうる体制を作ったそうです。

一方で、カスタマーサクセスを進める上での”成功”の定義について悩み続けます。

「この時期、何を持ってカスタマーサクセスとするか、何を持ってオンボーディング完了とするか、との定義付けは模索しましたね。『この機能を活用したら』といった”マジックモーメント”を探そうとしたこともありますが、うまく機能しませんでした。今では顧客が『入れてよかった』と言えばオンボーディング完了ということにしています。でも、当時はそんなシンプルな答えに中々行きつけなかった。」と当時の苦労を吐露していました。

さらに、KPIの設定とマネジメントについても、試行錯誤したようです。チャーンレート(解約率)をKPIとするカスタマーサクセスチームは少なくないですが、現在クラウドサインのCSチームでは採用していません。その理由は、チャーンレートはアクションと紐付けづらいため。

岩熊氏曰く「様々な考え方がありますが、チャーンレートはマーケ段階での期待値調整やセールスの受注の仕方、競合プロダクトなど複合的な要素の結果であるため、カスタマーサクセスチームのみで具体的なイメージがしづらいKPIです。したがって、チームメンバーのアクションに紐付けることも難しいと私は考えています。

例えばチャーンレートをチームのKPIとした場合、直接的なアクションとして解約を申告した顧客を訪問し引き止めを行うなどがありますが、お分かりの通り本質的ではありません。そして、もしもイメージのつかないKPIを置くと、メンバーは”とにかく頑張る”というマインドになり、成長や前進を実感することもできなくなります。現状のチーム規模であれば行動から考えて、KPIを多く設けるぐらいの方が良いと考えています。」と、KPI設定については正しさを追求しすぎず、チームの中で機能することの重要性を語りました。

また、チーム立ち上げ時は、新しいメンバーに多くのことを期待しすぎてしまい、結果ワークしないといったことを起こしてしまいがちです。岩熊氏からは「そんなときも、メンバーへの期待値を下げるのではなく、本人の強み弱みを理解して適材適所の考え方で業務分担すべき」とアドバイスがありました。

こうした試行錯誤のチーム立ち上げ時を経て、よりメンバーの役割が細分化された現在の拡大期に入ります。

役割の細分化が進む「拡大期」。それぞれのメンバーがプロフェッショナルへ。

弁護士ドットコム株式会社Head of Customer Success 岩熊氏

現在のクラウドサインのカスタマーサクセスチームは大幅に拡大し、立ち上げ時に比べて役割もかなり細分化しています。求められるサポートが変わるため顧客規模別に担当を分け、ほかにオンラインコンテンツの企画推進、テクニカルサポート、パートナーサクセスの役割があります。

特に注力しているのが、サービスリリース時から重視していたチャットサポートと、エンタープライズ顧客の社内利用拡大、そして現在立ち上げ中のパートナーサクセスです。

チャットサポートが充実していることにより、顧客が自ら活用を進めていき、コンタクトセンターへの連絡頻度が下がるため効率化が図れます。さらに未ログイン画面にもチャットを設置しているため、新規顧客の獲得にも寄与。クラウドサインでは、収益インパクトの大きい前衛的チームとしてチャットサポートチームを捉えています。

また、クラウドサインはリリースから3年が経ち、機能拡充や連携プロダクトも増えてきたことで日本を代表する大手企業での導入も増えてきました。大手企業での契約業務をいきなり全て電子化することは困難なため、導入段階では特定の部署でスモールスタートすることが多いですが、その成功体験をもとに、顧客にとっても電子化するインパクトの大きい「本丸」の部署の業務改善をお手伝いすることに注力しています。

パートナーサクセスとは、現在クラウドサインのセールスを代行している企業に向けたもの。日本の代理店はSaaSのセールス経験は少ないため、SaaSビジネスモデルを理解しながら販売を進めてもらうためにも、パートナー企業の中に自社内と同様のCSを立ち上げる支援を行なっています。パートナーの社内KPIを、パートナーとともに追いかけているようです。

また、KPIの一つとして”オンボーディングプロセスに対する顧客の満足度”との説明もありました。ここに、クラウドサインのオンボーディングを受けたことがある高橋が反応。たった10分のオンボーディングミーティングがとても洗練されており印象的だったという。

「10分の中に数々のエッセンスが盛り込まれていました。まず『月に何件ほど契約書を締結していますか?もし少なくなってきたら連絡しますね』というコミュニケーション。何気ない会話に感じるが目標設定を促しており、目標達成ができないときに連絡することを自然に承諾してもらっています。

次に、ツールの説明をせずに『何かあったら質問してくださいね』と、チャットサポートを実際に使わせます。クラウドサインはサービス自体がわかりやすいため、オンボーディングで複雑な機能説明は必要ないのです。顧客は操作に困ったらすぐに質問してしまった方がすぐに課題解決できる。そこで実際にオンボーディング中にはチャットサポート機能だけを使わせ、チャットでの成功体験を作っていました。

たった10分でも、かなり緻密に設計されていると感じました。担当の方のコミュニケーションも的確で、「まるでディズニーランドにいるようだと感じたくらいですよ。」このようにチームの拡大期には、役割細分化に伴い多くのKPIを定めています。しかし、岩熊氏は「現在設定しているKPIに対し固執してはいない」と言います。

「KPIは設定していますが、現在も試行錯誤をしています。これまで追っていた数値を来月から追わないという判断もよくありますし、私からメンバーへ『この数値は追う必要があるか』と相談することも度々です。だから現状のKPIも来週には変わっている可能性があります。」

イベントの最後の質問「今後どのようなチームにしていきたいか?」に対し、岩熊氏は”プロダクトの成長に関与できるカスタマーサクセスチーム”と答えます。

「結局お客様を成功に導けるのはプロダクトです。だからプロダクトの成長に関与できるカスタマーサクセスチームとして、プロダクトマネージャーの大きな役に立ちたいですね。カスタマーサクセスが集めてくる顧客のインサイトによって、正しくプロダクトを成長させていけると考えてます。」

成果の出せるカスタマーサクセスチームの作り方

今回お話いただいたクラウドサインでは、岩熊氏のセールスやマーケティングで得たノウハウが注入されたカスタマーサクセスチームの姿を感じることができました。

日本においてカスタマーサクセスの概念はまだ新しいものであり、そのチームを機能させる仕組みはどの組織でも模索中の段階でしょう。しかし、だからこそサービスや企業カラーが反映された様々なチームの形が生まれる可能性があります。現在カスタマーサクセスのチーム作りを担う担当者の多くが、生みの苦しみの中にいるはず。しかし、そこに今しか味わえないカスタマーサクセスという職の魅力があるのかもしれません。(文:萩原愛梨 編集:高橋 歩)

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