フルリモートで実践するカスタマーサクセス



5月12日、『フルリモートで実践するカスタマーサクセス』と題したオンラインセミナーを開催しました。

新型コロナウイルスの影響より、多くの企業がリモート環境に移行し、カスタマーサクセスにおいても、今までオフラインを前提としてきた取り組みやコミュニケーションの見直しが急務となっています。本イベントでは、SmartHR 鈴木高太郎氏(@izousan)、日本マイクロソフト 佐藤拓良氏(@takura_sato)、Repro 岩田健吾氏(@kengoiwt)をお招きし、HiCustomer 高橋歩(@ayumut)と共に、フルリモート環境における変化・施策について議論しました。

ティーチングはコンテンツに任せ、CSMはプロジェクト推進にコミットする

クラウド人事労務ソフトを提供しているSmartHR。同社のカスタマーサクセス部門は、ヘルススコアやイネーブルメントに取り組む「Opsチーム」、SMBを担当しテックタッチ・ロータッチでサポートする「SMB CSMチーム」、鈴木氏が所属している「enterprise CSMチーム」の3チームで構成されています。
本セミナーでは「enterprise CSM」が取り組んでいるオンボーディング 施策についてお話いただきました。

「コロナ禍以前は、受注が訪問なら訪問でのオンボーディング、受注がリモートならリモートでのオンボーディングを行っていました。3人1チームでARR4.5億を担当することを目標としており、脱属人化、リモート対応などの効率化は以前から課題でした。」(鈴木氏)

その様な状況の中、フルリモート時代に突入。SmartHRでは「ハイタッチの再定義」「目指す顧客との関係性」の見直しを実施しました。

「エンタープライズの顧客は、導入に関わる担当者数も多い傾向があります。僕らは『ハイタッチ is PM(Project Manager)』と定義し、オンボーディング時のティーチングの要素はコンテンツ・ウェビナーに任せ、CSMは大人数の導入プロジェクトをどう進めるのかに注力する、という意思決定をしました。

具体的には、以下の取り組みを始めています。考えてみれば当たり前のこと、しかし凡事徹底はとても重要なことですよね。」(鈴木氏)

  • プレキックオフスタート
    大人数の会議で議論が拡散することを防止するために、キックオフ前に決裁者と導入推進者と共に、導入目的・運用イメージ・導入スケジュールのすり合わせをするプレキックオフの取り組みを開始。
  • アジェンダや資料を全て事前送付
    事前準備に時間を掛け、打ち合わせを議論する場ではなく合意を得る場にする。
  • mtg後にタスクの整理をして送る。
    オンラインMTGでは相手の理解度・雰囲気が伝わりにくいため、必要なタスクを明示する。

また社内の脱属人化については、チーム制にすることで改善を図ったという。今まで訪問時の移動に掛かっていた時間を、事前の壁打ち・事後の反省会として活用し、個人ではなくチームに知見が溜まる仕組みを構築されたそうだ。

そして、アフターコロナの世界について、鈴木氏はこう語ります。
「基本的にリモートでの対応は変わらず続けていきます。僕らが訪問するのは顧客に『お願いをする時』だけになるのではないでしょうか。
少なくともティーチングはオンラインになるため、僕らはコンテンツに注力していきます。大コンテンツ時代が到来すると考えて、今から準備を進めていきます。」(鈴木氏)

自分たちが徹底的に実践し、その経験を元に顧客を成功に導く

日本マイクロソフトのカスタマーサクセス部門には、コロナ禍以前より、リモートでカスタマーサクセスを行う組織(FTC:FastTrack Center)が存在しており、CSMとの棲み分け・連携が定義されていました。
「以前は、顧客のアダプションするための動機付けやプランニングを、CSMが訪問で顧客をフォローしながら主導していました。その後の実行段階では、標準コンテンツで対応出来るのものはFTCが担当し、カスタマイズが必要な物はCSMが担当するという棲み分けをしていたのです。

しかしこのフルリモートへの移行で、顧客のデジタル環境への移行が必須事項となり、動機付けやプランニングよりも施策実施が求められる様になりました。」(佐藤氏)

施策が重視される中で、CSMの役割の再定義を行ったと言う。FTCが世界標準のサポート・コンテンツを提供するのに対し、CSMは日本の顧客に特化したコンテンツを作成し、それを元に伴走する位置付けになったそうだ。

「日本企業がリモートへ移行する中でぶつかる課題や質問を『初心者向けコンテンツ』としてまとめ、提供しています。

私たち自身、もともとリモートの先進的な働き方を実施している企業として取り上げていただくことも多かったのですが、『フルリモート』は初めての状況でした。まずは私たちが徹底的にやり方を見直し実践することで、そのナレッジを提供していく方針を決めました。」(佐藤氏)

顧客をどう変えるのかの前に、まず自分たちがどう変えるかと言うことを徹底的に追求された日本マイクロソフト。
「離れていても協力できる文化づくりや効率的な会議の追求というのは、以前から意識的に取り組んでいたことでもあります。

自社でこれらの磨き込みをするとともに、顧客とのコミュニケーションでも実践をしていきました。こういう方法でやると上手く行きますよ、という事をツールの使い方まで落とし込んで提案をしていきました。自分たちの実践知を顧客に提供し共に実施することで、アダプションのショートカットが出来たと考えています。」(佐藤氏)

佐藤氏は、コロナ対応で変えなかったこともあると語る。
「もともと、自分たちの実践経験を提供するコンセプトで活動しており、今回のコロナ対応でもその根底は変わらず、私たち自身の甘かった部分を見直し、徹底的にやり切ることに注力しました。だからこそ顧客にも説得力をもって伝えることが出来たのだと考えています。」(佐藤氏)

タッチポイントを拡充し、顧客が自分で成功できる仕組みを作る

Reproは、webサイトやアプリユーザーに対し最適なタイミング、内容、チャネルを通じてポップアップ表示・プッシュ通知・メール配信するなど、ユーザーとのコミュニケーションを最適化するCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォームを提供されています。

岩田氏は、現在のカスタマーサクセスを取り巻く状況についてこう述べられました。
「コロナ禍の影響で新規顧客の獲得が難しくなっていきます。さらにスタートアップの資金調達環境も悪化しているため、既存顧客のLTVを高めることが重要になっています。
既存顧客のMRRを守るために、カスタマーサクセスに取り組まないと事業が立ち行かなくなるのです。」(岩田氏)

Reproではこの様な状況を切り抜けるため、以下4つの取り組みをされています。

  1. ヒューマンタッチのリモート化
  2. サポートサイトのコンテンツ拡充
  3. コミュニティのオンライン化対応
  4. プロダクトタッチ

「私たちもリモートワーク への移行を行いました。通信環境問題や大人数での会議の困難さなど、単純に今まで行っていたことをリモートにシフトするだけでは解決できない問題もありました。
この問題を解決するため、カスタマーマーケティングの領域が大事になってきています。

例えば、今までハイタッチで対応を行っていたため最低限にとどめていたサポートサイトのコンテンツ拡充に取り組み始めています。これはReproの利用方法に関する記事、オウンドメディアに掲載するマーケティング記事ともに準備を進めています。」(岩田氏)

オフライン・オンラインの両軸で運営していたコミュニティも、オンラインのみとなったことで工夫が求められました。
「Slackで運営しているオンラインコミュニティでは、マーケティング施策を投稿するチャンネルを作り、ユーザー同士でナレッジシェアが出来る環境を整えたり、オンラインイベント前にチャットを立ち上げる事で参加者同士が繋がれる仕掛けをしました。

オンラインイベントでは、予想以上の高い満足度評価を頂戴したり、首都圏以外の参加者が増えるなど、希望が見えている部分もあります。」(岩田氏)

さらに、自社でも「Repro」を活用し、顧客の管理画面内にコンテンツや新機能のお知らせをポップアップ表示するなど、プロダクトタッチの取り組みも始められています。
「私たちが目指しているところは、顧客とのタッチポイントの拡充をし、どのタッチポイントでも顧客自身で成功できるような体験を作ることなのです。」(岩田氏)

 

今回3社のお話を通して、『コンテンツ』というキーワードが浮かび上がりました。
現時点では、コンテンツを「届ける」ための整備を進めている企業も多いと思いますが、今後、そのコンテンツが「どのくらい届いて、どのくらい効果が出たのか」が見える様になると、よりコンテンツの価値が高まっていくでしょう。

最後に、高橋はこう締め括りました。
「今回フルリモートになったことで、同じ時間に集まって何かをすることから、非同期での活動に移行しています。
今回のキーワードとなった『コンテンツ』に関しても、自分で情報を探しに来た顧客が必要なものを見つけられる状態を作ること、適切な情報を適切なタイミングで届けられること、この両輪が整ってくると、よりカスタマーサクセスへ導きやすくなるのではないでしょうか。」(高橋)


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