注目のSaaS企業3社から学ぶ、これからのカスタマーサクセスに求められる役割



ヘルススコアで顧客の状態を可視化する、SaaS向けカスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer」

近年、SaaSのビジネスモデルによるサービス提供は珍しくなくなりました。2019年に突入してからもSaaS業界の盛り上がりは継続し、多くの新しいSaaSサービスが誕生し続けています。
様々なプレイヤーの中で特に存在感を示す企業たちは、業界を牽引しながら急成長を遂げています。目覚ましい成長の裏側には何があるのかーー。それを探るべく、2019年6月17日、HiCustomer株式会社が主催となり、急成長中のSaaS企業が集うイベント『SaaS Catalyst』を開催しました。

2つのセッションで構成された『SaaS Catalyst』の前半戦は、SaaS企業急成長のヒントとして、各登壇企業のカスタマーサクセス活動を紐解いていきます。

『カスタマーサクセス』もまた、SaaSの広がりに共に注目を集めてきたキーワードです。
「売って終わり」でなく「売った時点からがスタート」であるSaaSのビジネスモデルにとって、顧客が自社サービスを「使える」状態にするだけでは不十分。自社サービスを「使い続けることで、顧客の事業の目的達成に近づける」状態を作らなければなりません。
これこそが『カスタマーサクセス』の考え方であり、SaaS企業がカスタマーサクセスを重要視する理由です。

前半セッションでは、SaaS企業のカスタマーサクセス活動を支援するHiCustomer株式会社からカスタマーサクセスマネージャー高橋がモデレーターとなり、3つのSaaSサービスを提供する企業のマネージャー達とディスカッションしていきます。

LTVの最大化だけでない、拡大するカスタマーサクセスの目的と役割

今回は、注目を集めるSaaSサービスから3名の方がご登壇くださいました。

• Repro株式会社 CCO 佐々木翼氏
• スタディプラス株式会社 取締役COO 宮坂直氏
• ワークスモバイルジャパン株式会社 執行役員 萩原雅裕氏
 (写真左から)

セッションの冒頭に、HiCustomer高橋からこの企画の背景にある「カスタマーサクセスの目的と役割の変化」についてお話させていただきました。

「カスタマーサクセスの事業面におけるミッションについて、LTVの最大化とする担当者は多いでしょう。Churnの削減やアップセル・クロスセルの機会創出のために、様々なカスタマーサクセス活動を行います。

一方で、圧倒的な事業成長をもたらすには、LTV最大化に紐づく活動だけではなく、アドボカシーの獲得や、マーケティングチームと連携したメッセージ作り、お客様の声をプロダクトへフィードバックすることなど、幅広い事業貢献が必要になります。」(高橋)


拡大するカスタマーサクセスの役割を捉え直すと、3つの視点が見えてきました。セッション本編では、3社の事例から「いまカスタマーサクセスに求められる3つの役割」について紐解いていきます。

役割①顧客へ世界感を示し、市場を創る-正解が確立されていない中でも、顧客に成功イメージを醸成したStudyplus for School

最初の事例をお話いただいたのは、スタディプラス株式会社 取締役COO 宮坂直氏。

スタディプラス株式会社は、塾/学校向けに業務支援SaaSサービスStudyplus for Schoolを提供しています。現在、塾/学校を取り巻く教育業界では、先生の採用困難などを理由に、大きな変化が起きています。先生の授業ではなくデジタルの教材を使って生徒に学習させる『自立学習型モデル』への移行です。

これに伴い、先生の業務はティーチングからコーチングが中心に。プロダクトをリリースした当時は、変化する市場ならではの大変さがあったようです。

「いままで教えることを重視してきた塾にとって、学習管理は初めての体験です。新しい業務の支援をする上で、立ち上げ期の2年間は正直、苦労もしてきました。

自立型学習塾は業界で初めて起きている大きな変化なので、正解を誰も知らないんですよね。業務が確立されていないからこそ製品の機能理解の促進だけでなく、オペレーションまで踏み込んでいく必要があると感じました。」(宮坂氏)

立ち上げ期には全国の塾をインタビューし、成功事例を集め、100ページを超える塾運営に関するオペレーションをまとめたプレイブックを作りました。これにより、製品や業務の理解は進んだものの、カスタマーである塾講師にとって新しい業務構築そのものとも言えるStudyplus for Schoolの運用は、継続に大変な労力がかかりました。運用の大変さによる離脱を防ぐため、宮坂氏は次なる打ち手として「成功イメージの醸成」を重要視するようになります。

「ツールを入れることで運用が大変になった際に『製品が悪い』と判断されてしまうことって実はよくあることじゃないかと思います。Studyplus for Schoolの場合、カスタマーにとっては『業界を転換しなければならない』ほどの話なので大変なんですよね。だから途中で心が折れてしまう。

ここで『今は大変だけど、いつか成功する』というイメージ作りが不足しているんじゃないかと考えたんです。プレイブックを磨く以上に、プレイブックに沿って運用すれば上手くいくと成功イメージを持たせることが大切だと。
そこから利用を促進するための闇雲なコミュニケーションではなく、成功イメージを持ってもらうためのコニュニケーションに方向転換しました。」

具体的には、製品の活用度合いをKPI化し、スコアシートをカスタマーに配布。導入校の中で活用度が上位10%以内の場合、スコアシートにはAAA(トリプルエー)と記載されます。

また、カスタマーサクセスのメンバーは、カスタマーとSNSで繋がった上で、事例を発信します。全員1日に一度は発信するようにルール化しています。
このような取り組みによって、成功しているカスタマーの存在が見える化でき、成功イメージの醸成に繋がっていきました。カスタマーが相対的に自社の活用度を把握すると、主観によって大変さや効果を評価することがなく、正当にプロダクトの価値を理解できるようになります。

成功イメージを伝える地道な草の根活動を続けたStudyplus for School。より具体的な成功イメージを作ることがプロダクトのコア価値の理解に繋がり、市場の開拓に繋がることを学ぶことができました。

Studyplus for Schoolの事例をより詳しく解説したレポートはこちら

役割②顧客中心の組織と文化を育む-崩壊の危機を乗り越え、全社に影響を与えるチームを作ったRepro

続いて、サービスと共に組織が拡大する過程におけるノウハウをお話いただいたのは、Repro株式会社 CCO 佐々木翼氏。

アプリやWebサイトに特化したマーケティングプラットフォームReproのカスタマーサクセスチームは、チーム組成当時からの重要な思想として『Customer Growth』を掲げています。 この思想についてCCOの佐々木氏は次のように語ります。

「プロフィットセンターとして成果にこだわっていく意思を表したものです。一方で売上数字よりもお客様との良好な関係を築くことを重視するスタンスも大切にしています。

カスタマーがいなければ、成果である売上は上がりません。カスタマーサクセスチームの姿勢としては、いかにいい関係を築いた上で、売上を作れるかを意識すべきだと思っています。」(佐々木氏)

Reproのカスタマーサクセスチームでは顧客起点で売上向上に働きかけていくために、あらゆる部署と連携し、幅広い業務を遂行しています。

例えばマーケティングチームと連携してプロダクトのメッセージを統一したり、オフラインイベントを企画したりすることもあれば、セールスチームと連携しクロージングに同席して期待値を調整することもあります。また、カスタマーの声をプロダクトチームに届けることで、UXの改善や新機能のリリースを促すことも。この部署を横断した動きをスムーズにするために、カスタマージャーニーマップを作成しプロセスを共有しているようです。

成果を上げられる強いCSチームを作り上げているように見えますが、実は平坦な道ではなかったと佐々木氏は語ります。

「実は一度チーム崩壊の危機を迎えたことがあるんです。メンバーの一人から真夜中に『このままではCSチーム皆やめてしまう』と電話を受けたことがあって……。複数のチームとの連携が必要なこともあり、立ち上げ時にはハードワークになってしまう傾向にあったんです。

あまり思い出したくない過去ですが、これがハードワークな状態を脱するきっかけになりました。この時期を乗り越えたことによりスケールできる体制を作り上げることができ、今は色んなことに挑戦できるようになっていますね。」(佐々木氏)

困難を乗り越えたReproのカスタマーサクセス。より高い水準でのCustomer Growthを達成するために、掲げているキーワードが「データ活用とチーム横断」です。
ヘルススコアや商談の情報などのデータを、カスタマーサクセスチームだけでなくチームを跨いでアクションに繋げられる状態を目指していると言います。

Repro社のカスタマーサクセスチームの事例からは、カスタマーロイヤリティとプロフィットの両立のためには、積極的に他のチームに働きかけ、全社に顧客起点の目線を浸透させることの重要性を伺い知ることができました。

役割③顧客の声を聴き、顧客と共に成長する-カスタマーのフィードバックからサービスを強化したLINE WORKS

最後の事例はワークスモバイルジャパン株式会社 執行役員 萩原雅裕氏から。成長にともなってカスタマーの属性が拡大しながらも、幅広いカスタマーをサクセスに導いたノウハウについてお話いただきました。

ワークスモバイルジャパン株式会社が提供するLINE WORKSは、もはやインフラとも言えるチャットサービスLINEの使いやすさを踏襲したビジネスチャットサービスです。

現在LINE WORKSにはカスタマーサクセスと名のついたチームはありません。そこには長年toCサービスを提供してきたNAVERやLINEと共通するカルチャーがあると萩原氏は語ります。

「(LINEのような)toCサービスは、使われなかったらそこでアウトです。そのカルチャーを持っているので、支援なしでもカスタマーに使っていただけるほどプロダクトが強くなければいけないと、開発する上でも事業を進める上でも意識しています。

その思想があるから、LINE WORKSをコミュニケーションツールとしてリリースするにあたって、ユーザーの声を強く意識しました。コミュニケーションは国や企業文化に依存しますし、ツールの使い方もカスタマー次第。だからこそ、プロダクトアウトではなく、サービスをマーケットやユーザーに近づけていくという共通認識を持っています。この考え方は、LINEではカルチャライゼーションと呼ばれています。」(萩原氏)

多くの人にとって馴染みのあるLINEと似たUIという強みに加え、顧客の声を開発に反映するカルチャライゼーションのDNAで、BtoB特有の「使いづらそう」といった印象を払拭したプロダクトとなったLINE WORKS。カスタマーサクセスと名付けたチームはなくとも、カスタマーの声が起点となり、プロダクトやサービスを成長させてきた過程にはカスタマーサクセスに通ずる思想があります。

LINE WORKSの歩みを振り返ると3つのフェーズに分けることができます。

まず、ビジネスチャットの認知獲得や成功イメージの醸成に取り組んだ立ち上げ期。ビジネスシーンでチャットを使用することが一般的ではなかったため、地道に事例を集めながら、その事例を使って新規ユーザーに訴求し、また事例から得た顧客の声をプロダクトに反映して行きました。

この時点でのカスタマーは、想定とは違う顧客像だったようです。

「LINE WORKSの初期のカスタマーは、テッキーな属性ではありませんでした。地方の社員数5名の家族経営企業だったりしたわけです。いわゆるITにおけるイノベーターではなく、“経営課題を解決したい”という意識においてのイノベーターだったんです。

ITに馴染みの薄い属性の方にもお使いいただけた実績を元に、次のフェーズではパートナーを通じた営業活動の支援強化を開始しました。」(萩原氏)

パートナー企業を巻き込みながらユーザー拡大を進めるフェーズでは、カスタマーとの関係性が薄まってしまう弊害を乗り越えるために「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」と名付けた取り組みをはじめました。

パートナー企業経由も含め、複数のタッチポイントから得られるユーザーボイスを社内データベースに蓄積し、プロダクトやビジネス・プロセスに対してフィードバックしていくというものです。

リリース初期からユーザーの声を元にプロダクトの改善を続けたことでLINE WORKSは着実に成長していき、さらに急角度でスケールさせるフェーズへと突入していきます。
市場拡大のためフリープランを開始したことで、消費者に近いカスタマーが集まり、これまでなかった課題に直面することになりました。

「これまでのオンボーディング支援をせずともサクセスしたカスタマーは、ある程度リテラシーの高い方々だったんだと気づかされました。

フリープラン開始後に増えたカスタマーは、より消費者の感覚に近いため、LINEとほぼ同じ感覚で使えるという期待値で利用を開始する方が多かった。しかし、そういった方にとってはLINE WORKSは想像以上に難しかったのです。

さらに無料プランだと、事前によく調べずとも『まず使ってみる』ということができますし、使ってみて『よく分からない』と思った瞬間にやめてしまうことができます。そこでchurnを意識した活動の重要性が増しました。」(萩原氏)

プロダクトを磨き続けたものの、LINEの気軽さを期待した顧客にとっては、ITソリューションあるLINE WORKSはまだまだ難解なものでした。
そこでLWUG(エルワグ)と名付けたユーザーコミュニティが大事な役割を担うことになりました。すでにすべてのカスタマーをフォローできる規模ではなくなっていたため、カスタマー自身が「分からないことを隣の人に聞ける環境」を作ろうとしたのです。

LWUGは、LINE WORKSの運用ノウハウではなく、「社内の情報共有」や「働き方改革」などカスタマーの課題を解決するためのノウハウ共有の場であることを目指して運用されています。
コミュニケーションツールであるLINE WORKSの運用方法は様々で、カスタマーの数だけあると言えるほど。ツールを使っている目的にフォーカスして運営することで多くの方にとって価値のあるノウハウをシェアしているそうです。

現在は、コミュニティ運営を通じて得たカスタマーのインサイトをプロダクトに反映しながら、カスタマー自身のノウハウをコンテンツ化、発信され、マーケットへ波及していくような好循環作りに取り組んでいるとのこと。

どのフェーズでも、ユーザーからのフィードバックをインプットできる仕組みを作り上げてきたLINEWORKSの事例からは、ユーザーとの共創により成長を目指す、新しい顧客との関係構築の形を学ぶことができました。


各社の事例から紐解いた「顧客へ世界感を示し、市場を創る」「顧客中心の組織と文化を育む」「顧客の声を聴き、顧客と共に成長する」という、今のカスタマーサクセスに求められる3つの役割。

この3つの役割も、サービスや企業の段階によって、重要度が変化します。新しい市場を作り上げる段階では顧客への成功イメージの醸成が重要になり、組織が拡大する段階ではカスタマーサクセスだけでなく部署を横断して顧客起点の目線を浸透させていくこと大切です。また、規模が拡大する中ではカスタマー同士を繋ぐなど、関与が薄くともサクセスできる仕組みを設計する必要があります。

これからのカスタマーサクセスには、顧客視点に加え事業視点を持ちながら最適解を導き出す、さらに重要な役割が期待されているようです。
(文:萩原愛梨 編集:中村綾香)