カスタマーサポートからカスタマーサクセスへの組織変革ーーWovn山﨑氏が語る事業成長を支えるCSチーム作り



ヘルススコアで顧客の状態を可視化する、SaaS向けカスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer」

2019年5月14日(火)、『カスタマーサポートから「カスタマーサクセス」への組織変革
』と題したイベントを開催しました。すでにSaaS企業の間でカスタマーサクセスの概念は広く伝わり、その重要性は理解されています。しかし、実際に成果をあげるための具体的なノウハウやチームマネジメントの知見は未だに多くありません。HiCustomerのイベントでは、カスタマーサクセスによる事業成長に必要な要素をより掘り下げ、チームでの成果の向上を探求すべく、各社のカスタマサクセスマネージャーをお招きし、HiCustomer高橋とディスカッションを行います。

今回は、Wovn Technologies株式会社ES(Enterprise Success)ディレクター 山﨑 健弘氏に、カスタマーサクセスから、自社独自のカスタマーサクセスチーム『エンタープライズチーム』を作り上げるまでの道のりについてお話いただきました。

サービスの成長と共に変化するWOVN.ioのCSチーム

WOVN.ioは、ウェブサイト・アプリを様々な言語に多言語化できるサービス。多言語化したい自社サイトやページをWOVNに登録し、WOVN管理画面で翻訳作業を実施することで効率的に多言語化コンテンツを生成、管理することが可能です。
多くのSaaSサービスが可能な限りWEB上で完結する形を目指す中で、WOVNはコンサルティングサービスが充実しているのが特徴的。ここには、WOVNが顧客のニーズ・課題に合わせて進化してきた歴史が隠されています。

実は、現在の完全見積もり制の料金システムで提供するに至るまでは様々な試行錯誤があったそう。

2017年11月までは、基本的な機能は無料で提供し機能追加で課金が発生するフリーミアムでサービスを提供していました。当時のCSは、従来のカスタマーサポートらしい体制で、業務が複雑ではない点が利点。しかし、当時の料金プランでは、サポートコストを回収することができなかったと言います。
さらに、この時期に使用する企業はWebサイトの多言語化に取り組むのが初めてであることが多く、そういった企業にツールを提供するだけ、いただいた問い合わせに回答をするだけでは、サクセスに繋がらないという課題にも気付くことになります。

そこから顧客の成功には伴走が必要だと判断し、有料顧客への十分なサポートを提供するため、有料プランを見積もり制へ変更。同時にCSチームもカスタマーサクセス活動を開始することになります。これにより有料プランでのコストは回収できたものの、無料版のサポートコストは効果に見合わない状態でした。

そして、2018年に無料版を廃止。現在の完全見積もり制の料金システムになります。完全見積もり制のモデルになるに当たって、CSチームはカスタマーサクセスとしての動きを強化。カスタマーサポートからカスタマーサクセスに生まれ変わるべく、業務範囲を広げアップセルも担当することに。

顧客理解を深めていく過程とともに、サービスや体制を柔軟に変化させてきたWovn Technologiesのカスタマーサクセス。山﨑氏は以下のように振り返ります。

「サービスを届けただけではクライアントは成功しない。WOVNを通じて、多言語化という顧客のプロジェクトを支え、その先のサクセスへ導くには、安く、早いことよりも、必要なコストを頂きながら、しっかりと寄り添ったサポートが必要だと感じました。これを踏まえて、WOVNをご活用いただいている顧客の成功のために、エンタープライズ向けサービスへと舵を切り直しました。」

独自のCSスタイル「エンタープライズサクセス」の誕生

WOVNの新しい方向性が定まり、カスタマーサポートやカスタマーサクセスの通説にとらわれず、独自のCSスタイルを確立させるべく、チーム名を変更。Enterprise Success(ES)として、BtoBのセールスのような動きを行うことも。

例えば、継続に当たって見積もり料金によってはフロントの担当者以上の上長の承認が必須になるため” 顧客のキーマンの承認状況 “や 、予算として確保してもらうために” 顧客の決算月 “などを管理します。

WOVN版CSチームとして生まれ変わったESチームが、顧客をサクセスへ導くには一つの重要なポイントがあったと、山﨑氏は語ります。

「Webサイトの多言語化を通じて成し得たい目的の達成こそ、顧客の成功になるわけですが、顧客はその本来の目的を忘れてしまったり、自身でも気づかないでいることが多いのです。というのも、ほとんどの顧客にとって多言語化の取り組みは初めてのこと。そのため、その先の目的よりも、多言語化自体の達成に意識がいきがちです。

ここでESチームが、顧客が真に目指すのは『売上アップ』なのか、『ブランディング』なのか、『コスト削減』なのか、顧客とともに整理をすることが大切になってきます。」

目的の設定後は、導き出した目的に対し、「WOVN活用の優先度を上げさせる」「目的にそったWOVN上での施策推進」「KPI設定」の3つの切り口で顧客にアプローチしていきます。特徴的なのは「KPI設定」。先述したように顧客の経験が豊富でなく、目的が不明確になりがちであるため、適切なKPI設定のサポートを実施していると言います。

これらの活動を、10名のチームメンバーで行なっています。ESチームの業務内容は、大きくテクニカルサポート、WOVN導入プロジェクトの推進、顧客の状況管理や運用最適化、の3つがあります。しかし、業務内容によってチーム分けはせず、顧客に対するメインの担当者を決めて、それ以外の役割はプロジェクトごとに個人に割り当てています。

これによって、チームのメンバー構成に変化があった場合でも、メインの担当者を変更しなくてもいいようにしているそうです。

真のサクセスに近づいたはずがチャーンが増加!?

顧客の真のサクセスに近づけようと始動したEnterprise Successですが、大きな問題が発生してしまいます。

まずは業務範囲拡大によるリソースの不足。顧客の数は増えていく中、これまでおこなってきたカスタマーサポートやアップセルセールス業務まで担当するようになったため、慢性的にリソースが不足していました。

また、元々のカスタマーサポートメンバーにとっては、アップセルの獲得などのセールス的な動きはストレスが大きく、チームメンバーの不満と疲弊を生んでしまうことに。

さらに、サクセスやアップセルを追求するあまり、足元のチャーン防止の動きがおそろかになってしまったのです。

これらの問題を解決するために、行なったことが二つ。

一つ目は、顧客をセグメントし、優先度を付けてサービスレベルを調整すること。会社規模やサイト規模などを基準にセグメントを切り、より大規模なプロジェクトとなる「VITAL顧客」と、比較的小規模なプロジェクトとなる「非VITAL顧客」に分類したそうです。

二つ目は一部の業務のセールスへの譲渡。業務分担を見直し、顧客訪問やアップセルのようなセールスメンバーのスキルが発揮される業務を移譲することで、メンバーのスキルミスマッチとリソース不足を解消しました。

ESチームは、セールスのブレインとしてサポートするような関係性を目指しているそうです。

顧客セグメントにより全ての顧客にESチームが考える最大限の支援ができないことによる葛藤や、セールスとの連携コストなど、残された課題はあるものの、運用可能なチーム体制を築くことができました。

リソース不足や管理コストの増大をHiCustomerによる作業効率化で解決

新たな体制を作り上げたWovn TechnologiesのESチームが現在取り組んでいるのが作業効率化です。
顧客をサクセスに導くためのチーム体制は築けたものの、より強いチームを作るには、非VITAL顧客に対するサポート強化や、VITAL顧客に向けたサポートのためのリソース確保、または管理コストの軽減などを解決する必要があります。

そのための策として、HiCustomerを利用した作業効率化を推し進めている最中だと言います。

「セグメントを切ることで、非VITALに分類された顧客のサービスレベルをこのままだと落とさざるを得ません。そのことに対する葛藤は大きかったです。しかし、非VITALの状況チェックをHiCustomerに任せることで、顧客に対するサポートが必要なタイミングでアラートを検知することができ、タイムリーなアクションを続けることができました。

またVITAL顧客へのサポートについても、ヘルスチェックなど管理にかかる労力を削減することで顧客への提案やサポートに注力できます。」

具体的な使い方としては、スコアの変化をきっかけとした顧客へのアクションがとれるようインジケーターを設定し、顧客の動きを日次でチェック。インジケーターに対して担当者を決めていきます。さらに週次のミーティングで対応状況を確認するといったPDCAサイクルを回しているそうです。

様々な試行錯誤を繰り返したことにより、今では、改善のサイクルが回り始めたと言います。「全顧客が成功できるフレームワークの構築を最終目標に、今後も邁進します。」と山﨑氏は意気込みます。

常に自社の顧客の成功と、サービスの方向性をブレずに見つめ続け、進化を遂げたWovn Technologiesのカスタマーサクセス体制。カスタマーサクセスについての知見が広く知られるようになってきたからこそ、手法が先行してしまい適切にワークしないという落とし穴は今後増えてくるかもしれません。カスタマーサクセス担当者は、多くの情報を取り入れながらも、目の前の顧客の成功を見失ってしまわないことが大切かもしれません。(文:萩原愛梨 編集:高橋 歩)

(お知らせ)6月19日に開催されるイベント「GLOBALIZED2019」に、Wovn Technologiesが協賛しています。当日は山﨑さんも参加されるので「もしもカスタマーサクセスについてご興味あればお声がけください」とのこと。WOVNのサービスや、カスタマーサクセスについてご興味がある方は、ぜひお申込みください。

GLOBALIZED2019 申込サイト: https://nvc.nikkeibp.co.jp/semi/globalized2019/

次回勉強会のお知らせ

次回は2019年6月11日(火)より、スタディプラス様に「顧客を導くコミュニケーション設計とチーム目標の作り方」についてお話頂きます。イベントページはこちら